大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

徳島地方裁判所 昭和60年(ワ)171号 判決

原告 美馬克治 ほか二名

被告 国

代理人 佐長彰一 金子敏廣 小坂守 藤田進 松尾雅広 ほか六名

主文

一  被告は、原告美馬克治に対し金五〇〇〇万円、原告美馬宗明に対し金五五〇万円、原告美馬秀子に対し金五五〇万円及びこれらに対する昭和五三年五月二四日から各完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

二  訴訟費用は被告の負担とする。

三  この判決は仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

主文同旨

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告らの請求をいずれも棄却する。

2  訴訟費用は原告らの負担とする。

3  担保を条件とする仮執行の免脱宣言

第二当事者の主張

一  請求原因

1  当事者

(一) 原告美馬克治(昭和四六年一〇月二一日生、以下「原告克治」という。)は、左記「接種の状況」記載のとおり日本脳炎ワクチンの予防接種(以下「本件接種」という。)を受けた者であり、原告美馬宗明(以下「原告宗明」という。)、同美馬秀子(以下「原告秀子」という。)は、原告克治の両親である。

(二) 接種の状況

接種年月日 昭和五三年五月二四日

接種時年齢 六歳

接種場所  鴨島小学校

接種の態様 集団接種

接種担当者 医師

接種の性質 予防接種法六条所定の臨時接種

実施主体  鴨島町長

2  事故の発生

(一) 接種後の状況

原告克治は、接種から四日後の昭和五三年五月二八日、少年の森へハイキングに出かけたが、出がけに寒けがすると言っていた。そして、原告克治は、車から降りて歩いている途中で突然呼吸困難となり、母親がかけつけた時には目がつり上がって意識を失った状態であった。

原告克治は、直ちに救急車で麻植協同病院へ運ばれたが、徳島大学附属病院に転送された。途中、原告克治は、意識が戻りかけたが再び意識がなくなり、そのまま呼びかけても答えない重度心身障害者となった。

(二) 現在の症状

原告克治は、知能・運動機能を破壊され、回復の見込みはない。

知能は最重度の知恵遅れの状態であり、運動機能は零である。また、背柱わん曲(変形)が激しく、寝返りも不可能となっている。したがって、食事を与えてもらうこと、おむつをつけ排便の世話をしてもらうこと、入浴の世話をしてもらうことなど、日常生活全般にわたって一切の介護をしてもらっている状態である。

3  因果関係

(一) 本件ワクチンの接種により、時として死亡または脳炎、脳症等の重大な後遺障害が発生することがあることは、広く知られている。

(二) 日本脳炎ワクチン接種によっては、原告克治にみられるような肝臓の脂肪変性をきたす肝機能の高度の障害を伴う急性脳症は発生しないとの見解もある。しかし、複雑な有害物質を多数含んでいる日本脳炎ワクチンから肝障害が起こりえないとの医学的証明は全くなされていない。また、疫痢や疫痢様疾患によって即時型副反応としての急性脳症が生じることはこれまでに知られていることである。疫痢の場合には、赤痢菌が幼児の腸管を通じて増殖する過程でヒスタミンを始め様々な活性物質を産出し、これらの物質が血管系に働いた場合には、それがショックの原因となり、即時型アナフイラキシー反応としての急性脳症並びにショック症状を並列的に引き起こすことは、故高津教授の実証したところである。同教授は、赤痢菌によらない疫痢様疾患の場合についても、疫痢と共通した病理発生機構が存在すると考え、実際に腸壁、肝、尿などからヒスタミンとその派生物質その他の活性物質を証明し、それらは赤痢菌や不明の原因物質と腸管との間で形成された共通の代謝産物であると考えた。したがって、日本脳炎ワクチンの接種によって、疫痢又は疫痢様の疾患の場合と同様ヒスタミン様の物質が産出されることは十分あり得る。そして、その場合、急性脳症の症状に加え肝機能の高度の障害が発症する蓋然性が高いのである。

(三) ところで、ワクチン接種と重篤な副反応との因果関係は、白木博次教授の提唱した、いわゆる白木四原則に従い、以下の四つの要件が満たされるときは、これを肯定すべきである。

〈1〉 ワクチン接種と予防接種事故とが時間的、空間的に密接していること。

時間的密接性とは、発症までの時間(潜伏期)が一定の合理的期間内におさまっていることを意味するが、ワクチンによる神経性障害の三つの型(急性脳症型、ウイルス血症型、遅延型アレルギー反応型)により異なり、さらに被接種者に個体差があるため一定の時間を頂点に自然曲線をえがき、したがって長短一定の幅があることが認識されなければならない。さらに、免疫学と神経病理学の双方の総合考慮やワクチンの接種が経口であるか、皮下接種であるかも潜伏期間を考慮する上で必要である。以上のような時間的密接性はまた、脳、脊髄、末梢神経等のうちどの部位が侵されるかによっても変わるのである(空間的密接性)。

〈2〉 他に原因となるものが考えられないこと。

これは、他の原因が一般的抽象的に考えうるというのでは足りず、具体的に存在したことが明らかであり、かつその原因と障害との間の因果関係も明らかとなっているものでなければならない。

〈3〉 副反応の程度が他の原因不明のものによるよりも質量的に非常に強いこと。

この要件は、〈1〉、〈2〉の要件程に重要ではないが、従前全く見られなかった症状が強烈に現れるということである。

〈4〉 事故発生のメカニズムが実験・病理・臨床等の観点から見て、科学的、学問的に実証性があること。

これは、事故発生のメカニズムについての知見が既存の科学的知見と整合し、それらによって説明されうるということである。

(四) 原告克治の場合、〈1〉ワクチン接種と発症が時間的に密接しており、その原因がワクチン以外に考えられないこと、〈2〉ワクチンによるものとした場合に医学上合理的説明が可能であること、〈3〉それまで元気で体格もよかった原告克治が突然に植物人間に近い状態になったのは、ワクチンの副反応特有の「折れ曲がり」現象と見られること、〈4〉厚生大臣から予防接種による被害者であるとの認定を受けていること等から総合的に判断すれば、原告克治の発症と本件予防接種の間には因果関係があるというべきである。

4  責任

(一) 安全確保義務違反による債務不履行責任

(1) 本件接種は、予防接種法(以下「法」ともいう。)六条所定の臨時の予防接種で、実施主体は鴨島町長であり、被告の機関委任事務として、市町村長が実施するものに該当する。

(2) 本件接種は、被告が法七条により何人に対してもその接種を受け、または受けさせる義務を課し、原告克治がその義務の履行として接種を受けたものである。

(3) 右によれば、被告と予防接種を受ける国民との間に診療契約の締結が強制されたもの、換言すれば、法律による強制によって通常の医療行為と同様の診療契約が成立したものと解すべきである。したがって、被告は被接種者である国民に対し、右契約上の債務として、あるいは右契約に付随する債務として安全確保の義務(安全配慮義務と同じ内容のもの)を負うことになる。仮に、右のような契約が成立していないとしても、被接種者と被告の間には、右診療契約の当事者と同視すべき特別の社会的接触関係が存在することは否定し難い事実であるから、被告は右契約の存在する場合と同様、被接種者に対し予防接種の安全を確保する債務を負うことになる。

(4) ところで、予防接種に関する以下の諸事実、即ちワクチンは、病原微生物を弱毒化ないし不活化したもの、あるいは病原微生物が産出する毒素であり、人体に害作用を及ぼす危険性の高い劇薬であって、予防接種には常に事故発生の危険が存在すること、一旦事故が発生するやその被害は極めて重篤であり、死亡や脳炎等回復困難な重大な結果をもたらすこと、予防接種によって右のような重大な被害が発生することは、古くから医学会及び公衆衛生行政当局によって知られていたもので、被告は予防接種によって現実に被害が発生している事実を認識し、本件事故に見られるような被害が発生する蓋然性をあらかじめ予見しながら、あえて予防接種を実施していたものであること、他方、右のような重大な危険を伴うにもかかわらず、予防接種は医療上の治療行為とは異なり、被接種者が現実に病気に罹患している場合に、その生命・身体に対する現実の危険を排除するためになされるものではなく、公衆に免疫を付与することによって、将来伝染病が発生した場合にそのまん延を防ぐため、いわば将来の不確定な危険をあらかじめ回避するためになされるものにすぎず、医療上の治療行為の場合には、生命・身体のより重大な具体的危険を排除するため生命・身体のある程度の危険をおかしてまで治療を行うことが許される余地があるが、予防接種の場合には、現実に伝染病が流行している場合に緊急避難として許される余地が考えられる以外に、このような考え方が許容される余地は全くなく、予防接種を実施するにあたっては万が一にも、被接種者に死亡あるいは重篤な障害を発生させることがあってはならないこと、接種を受ける国民は接種の安全を確保すべき能力手段を全く持たず、被告が完全に安全を保証してくれるとの絶大な信頼のもとに、予防接種を受けるほかないのに対し、被告は伝染病予防という行政目的を実現するために、組織的に予防接種を行うものであり、予防接種の安全確保につき、人的、物的にも最高水準の科学を最も良く活用でき、これに関する情報を独占できる立場にあること、強制によりなされる予防接種の場合には、国民は、法律上接種を受けるよう強制されているのであるから、国民が予防接種による事故の危険を回避することは、そもそも全く不可能であること等の諸事実に照らせば、被告は前記被接種者との間の法律ないし行政行為に基づく特別密接な社会接触関係に基づき、被接種者に対し、接種により生命・身体を侵害する事故が発生することのないよう、あらゆる人的・物的設備を動員して、調査、研究等に全力を尽くし、接種の実施にあたっては常に最高水準の安全性を確保すべき最高度の注意義務(債務)を負っていたものである。

(5) しかるに、被告は、右債務の履行を怠り、その結果、本件事故を惹起させたものである。

(二) 厚生大臣の故意または過失による国家賠償法一条の責任

(1) 被告は、衛生行政の最高機関として厚生省を設置し、同省は社会福祉、社会保障及び公衆衛生の向上及び増進を図ることを任務とし、国民の保健、薬事等に関する行政事務及び事業を一体的に遂行する責任を負っているものであり、厚生大臣は、衛生行政の主務大臣として、同省の事務を統括しているものである。

(2) 厚生大臣は、本件接種を被告の機関として、市町村長等をしてこれを実施させていたものであって、その遂行を統括し、これを指揮監督するという公権力の行使に当たっていたものである。

(3) 厚生大臣は、前記の各公権力の行使たる職務を執行するにつき、以下のとおり故意または過失があり、その結果、本件事故を惹起させたものである。

〈1〉 未必の故意

厚生大臣は、予防接種の施行により一定の確率で死亡または回復不能な後遺障害が発生することを認識しながら、それもやむを得ないものとして、本件接種を実施主体に実施させていたものであり、その結果、原告克治に対し、予想された本件事故を惹起させたものであって、このことは厚生大臣が、前記各公権力を行使するに際し、本件事故の発生について未必の故意を有していたことを示すものである。

〈2〉 推定される過失(過失の立証責任の転換)

緊急避難が成立するような例外的な場合を除き、伝染病予防という公衆衛生の目的のために個人の生命・身体が犠牲にされることは絶対に許されないものであり、厚生大臣としては、前記各公権力行為たる職務を執行するにつき、予防接種により死亡又は重篤な障害が万が一にも発生することのないよう万全の注意を尽くすべき最高度の注意義務を負っていたものであるから、予防接種によって事故が発生した場合には、それだけ厚生大臣の右公権力の行使たる職務の執行につき、何らかの過失があったものと推定されるべきである。

また、予防接種は、その全過程を被告が管理し、被告が組織的に実施するものであり、また予防接種の実施過程に過失があったか否かは、被告のみがよくこれを知りうる立場にあり、さらに予防接種事故の原因の究明は高度に専門的な医学上の調査、研究を要することがらであって、高度の専門的調査、研究能力を有し、知識や情報を独占する被告のみが、その原因を明らかにすることができるものであり、一私人にすぎない原告には、予防接種上の過誤を明らかにする能力や知識・情報は皆無に等しいから、このような実態のもとで、原告らに厳格な過失の立証責任を負担させることは、被害救済の途を閉ざすこととなり、著しく正義公平の理念に反する結果となる。したがって、この点からも過失の推定が肯定されるべきである。

以上により、本件事故の発生により、厚生大臣の前記各公権力の行使たる職務の執行につき過失があったことが推定され、過失の立証責任が転換されるから、被告が厚生大臣の職務執行に過失がなかったことについて立証責任を負うことになる。

〈3〉 具体的過失

予防接種は時に重篤な副反応が生じるおそれがあるもので、危険を伴うものであり、その危険をなくすためには事前に医師が予診を十分にして、禁忌者を的確に識別・除外する体制を作る必要がある。そのためには、次の各点に留意することが必要である。

(a) 集団接種の場合は、医師が予診に十分時間が割けるように体制を作ること。

(b) 臨時に駆り出される、しかも、予防接種の副反応や禁忌について十分教育を受けていない開業医を念頭に、予防接種による副反応と禁忌の重要性等について周知を図り、予診等のレベルの向上を図ること。

(c) 接種を受ける国民に対しても、重篤な副反応を発生するおそれのあることや禁忌の意味内容等についてもわかりやすく説明し、必要な情報を進んで医師に提供するよう動機付けをすること。

そして、伝染病の伝播及び発生の防止その他公衆衛生の向上及び増進を任務とする厚生省の長として同省の事務を統括する厚生大臣としては、法制定の当時から、予防接種による副反応事故を発生させないためには、禁忌を定めた上、医師が予診をして禁忌に該当した者を接種対象から除外する措置をとることが必要であることを十分認識していたものであるから、前記〈1〉ないし〈3〉の趣旨に沿った具体的な施策を立案し、省令等を制定し、かつ、予防接種業務の実施主体である市町村長を指揮監督し、あるいは地方自治体に助言・勧告し、更には、接種を実際に担当する医師や接種を受ける国民を対象に予防接種の副反応や禁忌について周知を図るなどの措置をとる義務があったものというべきである。ところが、わが国における予防接種体制の問題点を検討すると、厚生大臣は右義務を怠ったものと断ぜざるを得ない。

(三) 実施主体の過失による国家賠償法一条の責任

本件接種の実施主体である鴨島町長は、本件接種を実施し、あるいは本件接種の遂行を統括するにつき、以下のとおり過失があり、その結果本件事故を惹起させたものである。

(1) 推定される過失(過失の立証責任の転換)

前記(二)(3)〈2〉に記載したと同様の理由により、本件事故の発生により本件接種の右実施主体が、接種を実施し、あるいは接種の遂行を統括するにつき、何らかの過失があったことが推定され、それによって過失の立証責任が転換されるから、被告が、右実施主体が本件接種を実施し、あるいは本件接種の遂行を統括するにつき過失がなかったことについて立証責任を負う。

(2) 具体的過失

本件接種の右実施主体が本件接種を実施し、あるいは本件接種の遂行を統括するについて、予防接種事故を発生させる危険性、蓋然性を有する注意義務違反があったときは、事故発生についての過失(当該注意義務違反と結果との因果関係、結果の予見可能性、結果の回避可能性等)が事実上推定されるところ、本件接種の右実施主体が、本件接種を実施し、あるいは本件接種の遂行を統括するについて、予防接種事故発生の危険性蓋然性を有する以下の注意義務違反、すなわち、本件接種担当医師が、原告克治の接種当日の健康状態について予診を行い、細心の注意をもって接種事故を未然に防止すべき注意義務があったにもかかわらず、これを怠り、原告克治に対し漫然本件接種を実施し、本件事故を惹起させたという注意義務違反があった。

(四) 接種担当者の過失による国家賠償法一条の責任

(1) 推定される過失

原告克治は、予防接種によって重篤な後遺障害を負ったものであり、予防接種当時、予防接種実施規則(以下「実施規則」ともいう。)所定の禁忌者であり、接種担当者に禁忌看過の過失があった。

(2) 具体的過失

接種担当医師に、十分な予診を怠った結果、当該被接種者が禁忌該当者であることの認識を誤ったという具体的な過失があった。

(五) 損失補償責任

(1) 法三条は、何人に対しても同法に定める予防接種を受け、または受けさせる義務を課し、これに違反した場合には法二六条をもって刑事罰を課することとしていたものであり、法六条所定の接種は右義務の履行として行われたものである。法が、同法に定める予防接種を国民に強制しているのは、伝染のおそれがある疾病の発生及びまん延を予防し、公衆衛生の向上と増進に寄与することを目的としたものであって、集団防衛、社会防衛のためである。

(2) 被告による法律上の強制により、原告は本件接種を受けたものであるが、その結果引き起こされた本件事故は、原告にとって受忍することのできない特別の犠牲であり、被告は憲法二九条三項により、これに対する正当な損失補償をすべき義務を負うものである。

すなわち、憲法二九条三項は、直接には財産権の収用ないし制限に関する規定であるが、憲法一三条後段は「生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、公共の福祉に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする。」と定め、憲法二五条一項は「すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する。」と定めており、これらの規定に照らせば、憲法二九条三項の解釈適用に当たり、社会公共のための財産権の侵害については補償するが、同じく社会公共のためになされた生命・健康の侵害については補償しないとすることは到底許されない背理である。

憲法二九条三項が、生命・健康侵害の補償について直接触れていないのは、そもそも「収用」という概念が歴史的には財産権、それは古くは所有権について発生したからであるが、近時は、収用の対象となる「権利」も所有権から営業利益など無形の財産的価値を含めるようになったし、「用いる」という「収用」概念も次第に拡大的に解され、収用類似の侵害行為まで含めるに至っているものである。

そもそも、特別の犠牲に対する損失補償は特定人に対し、公益上の必要に基づき、特別異常なる犠牲を加え、しかもそれがその者の責めに帰すべき事由に基づかぬものである場合には、正義、公平の見地から全体の負担において、その私人の損失を調整する制度である。ところで、予防接種は伝染病から社会を集団的に防衛するためになされるものであるが、不可避的に被接種者に死または重篤な身体障害を生ぜしめる副反応を起こさせることがあり、被告はその事実を承知しながら、右犠牲の発生よりも伝染病に対する社会集団防衛の利益を優先させるという政策判断を行い、法による強制あるいは行政指導による事実上の強制により、国民に対する予防接種を実施し、その結果として予測されたとおり、少数の国民に死または重篤な身体障害がもたらされたものである。伝染病のまん延防止という社会公益の利益のために犠牲となった少数者に対し、その犠牲によって利益を受けた大多数の者が負担を分担することは、共同社会の基本理念である公平の原則に合致するものであり、その分担すべき犠牲は財産的犠牲に限定されるとすべき合理的根拠は全く存しない。むしろ、人生最大の悲劇である生命と健康の犠牲に対してこそ、懇篤に補償すべきである。右理念の法的表現がまさに国家補償の理念と法制度であり、本件のような被害に対する補償を除外して国家補償の制度は考えられないものである。

さらに、生命・身体に対する被害は、同時に甚だしい財産的損失を伴うから、生命・身体と財産権が次元を異にするとして、前者に対する補償義務を否定することは許されないものである。

(3) 以上により被告は、憲法二九条三項に基づき、原告克治及びその両親である原告宗明、同秀子が本件事故により被った損失について、正当な補償をすべき義務を負っている。

5  損害ないし損失

(一) 2(一)(接種後の状況)及び(二)(現在の症状)記載のとおり、原告克治は小学一年生の時に被害(本件事故)に遭い、中枢神経損傷により回復不能な重度の知能障害と、脳性麻痺による重度の視覚、聴覚、言語、運動等の機能障害を受け、自我に目覚めた人間としての生活を享受できないまま生きながらえるものであって、生命、身体に対する侵害としてこれ程過酷なものはない。また、本件事故は単に被接種者たる原告克治にのみ被害を与えたものではなく、原告克治の両親にも甚大な被害を与えたものである。原告克治の両親は、まさに四六時中原告克治の介護に追われ、精神的にも疲弊し切っており、特に母親の原告秀子は介護に明け暮れ全く自分の時間を持つことができず、しかもかかる生活は原告克治が生存する限り続くものであって、より有意義な人生を享受する可能性を全く奪われたものといえる。また、両親が介護に没頭しているあおりを受けて家庭は明るさを失い、原告の兄弟も父母の愛情を受ける機会がほとんどなかったものであり、家庭を主宰する両親の精神的苦痛は甚大であった。

(二) 以上のような本件事故の被害の特質、被害状況にかんがみ、原告克治及びその両親が被った損害ないし損失(以下、単に「損害」という。)を以下の根拠により個別に算定すると、次のとおりとなる。

(1) 得べかりし利益の喪失

原告克治の状況に照らすと、同人の労働能力喪失率は一〇〇パーセントと考えられるから、本件接種によって本件事故にあわなければ、一八歳から六七歳までの四九年間就労できたものである。

そして、一八歳時から現在(平成五年)の満年齢時(二二歳)までは、毎年、一八歳時の平成元年賃金センサスの第一巻第一表の産業計、企業規模計、学歴計の男女別全年齢労働者平均賃金と平成三年賃金センサスの第一巻第一表の産業計、企業規模計、学歴計の男女別全年齢労働者平均賃金とを平均した額程度の収入を取得することができたにもかかわらず、これを喪失したものと考えられる。そこで、平成元年の賃金センサスの第一巻第一表の産業計、企業規模計、学歴計の男子全年齢労働者平均賃金四七九万五三〇〇円と、平成三年の同平均賃金五三三万六一〇〇円を平均した額五〇六万五七〇〇円を基礎として、一八歳から二二歳までのホフマン係数二・三二一二(一一・五三六三―九・二一五一)により現在までの過去分の逸失利益を求めると一一七五万八五〇二円となる。

また、右時点以降六七歳時までは、平成三年賃金センサスの第一巻第一表の産業計、企業規模計、学歴計の男女別全年齢労働者平均賃金程度の収入を取得できたにもかかわらず、これを喪失したものと考えられる。

そこで、平成三年賃金センサスの第一巻第一表の産業計、企業規模計、学歴計の男子全年齢労働者平均賃金五三三万六一〇〇円を基礎として、二二歳から六七歳までのホフマン係数一六・〇六五四(二七・六〇一七―一一・五三六三)により将来分の逸失利益については、八五七二万六五八〇円となる。

右に計算した額を合計した逸失利益の総計は九七四八万五〇八二円となる。

(2) 介護費

原告克治の介護の状況に照らすと、発症後死亡するまでその生涯にわたり日常生活に全面的に介護を要するものと考えられる。そして、右要介護期間としては、原告克治の本件接種時の年齢と同年齢の者の平均余命期間に一致すると考えられる。そして、介護の開始時点(六歳)から現在の満年齢時(二二歳)までは、年に一二〇万円の介護費を要したと考えられる。また、それ以後の期間については、年に一八〇万円を要すると考えられる。そこで、これらの金額を基礎として、ホフマン式計算法により現在までの過去分の介護費を計算すると、一三八四万三五六〇円となる。

また、将来分の介護費については、平均余命期間が七六年であるので、二二歳から七六歳までのホフマン係数一八・一六〇三(二九・六九六六―一一・五三六三)によりこれを算出すると、三二六八万八五四〇円となる。

右に計算した額を合計すると、四六五三万二一〇〇円となる。

(3) 慰謝料

〈1〉 原告克治分

原告克治の精神的苦痛の慰謝料は少なくとも金一〇〇〇万円を下らない。

〈2〉 原告克治の両親(原告宗明、同秀子)分

右原告両名は、原告克治の父または母として、被告の強制により予防接種を受けさせたばかりに、最愛の子の生活能力及び精神能力を失わせた悲哀はこれにまさるものはない。しかも、今まで原告克治の介護のために献身してきたし、またこれからも終生献身する両親には、自分たちの幸福や生活を享受する余裕は全く奪われている。

したがって、原告克治の両親(原告宗明、同秀子)の精神的苦痛の慰謝料は、一人につき金五〇〇万円を下ることはない。

(4) 弁護士費用

各原告とも請求額の一割が相当である。

6  結論

よって、債務不履行あるいは国家賠償法一条による損害賠償請求権ないし憲法二九条三項による損失補償請求権に基づき、原告克治は被告に対して、前記各損害(損失)金損害額合計一億六九四一万八九〇〇円の内金五〇〇〇万円及び本件事故発生の日である昭和五三年五月二四日から完済に至るまで、民事法定利率年五分の割合による遅延損害金の支払いを、原告宗明及び同秀子は被告に対し、それぞれ前記各損害(損失)金損害額合計五五〇万円及びこれに対する本件事故発生の日である昭和五三年五月二四日から完済に至るまで、民事法定利率年五分の割合による遅延損害金の支払いを各求める。

二  請求の原因に対する認否及び反論

1  請求原因1(当事者)の事実について

請求原因1の事実は認める。

2  請求原因2(事故の発生)の事実について

(一) 同2(一)の事実中、原告克治が救急車で麻植協同病院へ運ばれた年月日、直ちに救急車で麻植協同病院へ運ばれたが、徳島大学附属病院に転送されたことは認め、その余は不知。

(二) 同2(二)の事実中、原告克治は、知能・運動機能を破壊され、回復の見込みはないこと、原告克治の精神状態が、極く簡単な内容は理解できるが、発語はない状態であり、そして、原告克治の運動機能が、走行(平地)不能、起立位不能、座位不能及び握力測定不能の状態であること、したがって、食事を与えてもらうこと、おむつをつけ排便の世話をしてもらうこと、入浴の世話をしてもらうことなど、日常生活全般にわたって一切の介護をしてもらっている状態であることは認め、その余は不知。

3  請求原因3(因果関係)の事実について

(一) 同3(一)の事実中、接種後に脳炎・脳症等が生じ、死亡ないし重篤な後遺障害を残した事例があることは認めるが、その発生率は一〇〇万対一以下である。

(二) 同3(二)の事実は否認する。

(1) ライ症候群の特徴

ライ症候群は、突然に高熱、意識障害、昏睡等をもって発症し、急激に重症化する疾患で、次の二つの特徴を有するものとされている。

〈1〉 急性脳症(非炎症性の急性脳浮腫)

〈2〉 肝臓の脂肪変性

そして、右特徴に特有の臨床的又は検査所見として、〈1〉の急性脳症については、(a)臨床像から発熱、意識障害、痙攣等が、(b)髄液検査では細胞数が増加していないにもかかわらず髄液圧の亢進が、それぞれ認められ、〈2〉の肝臓の脂肪変性については、(a)血液検査でGOT、GPT、LDHの各検査数値の急激な上昇が、(b)病理学検査(肝生検)では肝細胞中に脂肪球の存在が、それぞれ認められる。これらの臨床的又は検査所見が認められ、他に当該疾患の原因が考えられないときは、ライ症候群と確定診断されることになるが、このうち肝臓の脂肪変性が肝生検(肝臓に直接針を刺し、肝細胞を採取する検査)で確認できない場合は、ライ症候群と確定診断することはできず、臨床的ライ症候群と診断することが一般的である。しかしながら、臨床的ライ症候群であっても、他に当該疾患の原因が考えられないときは、ライ症候群であることの強い推認が働くことはいうまでもない。

ところで、ライ症候群は急性脳症の範疇に含まれる疾患であるが、急性脳症の症状に加えて、肝臓の脂肪変性をきたす肝機能の高度の障害を伴う特殊な一群であるとされている。

(2) 原告克治がライ症候群であることについて

原告克治の入院時の臨床像から、高熱、意識障害(嗜眠状態)、痙攣が認められ、髄液検査では細胞数が正常であるのに対して、髄液圧は顕著な亢進状態にある。また、肝生検は実施されていないものの、入院直後の昭和五三年五月二九日及び同月三〇日の血液検査ではGOT、GPT、LDHの各検査数値の急激な上昇が認められる。そして、このような臨床及び検査所見が存する一方で、原告克治にはライ症候群以外の疾患を疑わせるような所見が存しないのであるから、原告克治が本件接種後に呈した症状は、ライ症候群と認めるべきである。

(3) 日本脳炎ワクチンによってライ症候群が発症しないこと

日本脳炎ワクチンは、これまで極めて多数接種が行われており、この接種によると考えられる副反応も報告されているが、日本脳炎ワクチンの接種後にライ症候群が発症したという報告例はなく、また、日本脳炎ワクチンの接種によって肝機能の高度の障害を招来するという報告もなく、そのようなことも考えにくいとされている。したがって、日本脳炎ワクチン接種によってライ症候群は発症しないという結論が導かれる。

(4) ヒスタミンによっては肝機能の高度の障害が発症しないこと

ヒスタミンは、現在では、哺乳動物(人間も含む)のほとんどすべての組織に含まれており、特に、皮膚や腸管粘膜には豊富にヒスタミンが存在していることが明らかとなっている。したがって、疫痢患者に限らず、腸管はもちろんのこと、体内の各組織にヒスタミンが存在するのは当然のことであって、ヒスタミンが赤痢菌によって形成され、疫痢を起こすというような理論は、現在の医学的知見に明らかに反する。さらに、ヒスタミンは人体組織である肝臓にも含まれているので、ヒスタミンの産出によって原告らが主張するような肝機能の高度の障害が発症するとは到底考えられない。

(5) 日本脳炎ワクチンから肝障害が起こらないという証明はないとの主張について

原告らは、複雑な有害物質を多数含んでいる日本脳炎ワクチンから肝障害が起こりえないとの医学的証明は全くなされていないと主張するが、肝障害を伴うライ症候群の発症機序はいまだ完全には解明されていないのであるから、日本脳炎ワクチン接種によってライ症候群が発症するか否かを、医学的なメカニズムの観点から実証することはそもそも不可能である。一般に、生体反応の原因が一応明らかにされているのは、ある原因が存在すれば一定の結果が発生する、あるいは発生しないという統計的事実が存するからである。そして、日本脳炎ワクチンは、過去極めて多数の国民に接種が行われているにもかかわらず、いまだこれによってライ症候群が発症したと考えられる報告例は一例も存しない。

(三) 同3(三)は争う。

(1) 訴訟上の因果関係の立証は、経験則に照らして全証拠を総合検討し、特定の事実が特定の結果発生を招来した関係を是認しうる高度の蓋然性を証明することによってなされる。

(2) 右の前提に立って因果関係を判断する基準について検討すると、一般論として、あるワクチンの接種によって、ある疾病(本件訴訟に即していえばライ症候群)が起こり得る(一般的結果発生の蓋然性)ということができるためには、次の要件を必要とすべきである。

〈1〉 第一要件

接種から一定の期間内に発生した疾病が、それ以外の期間における発生よりも統計上有意に高い頻度で発生すること。

〈2〉 第二要件

当該予防接種によってそのような疾病が発生し得ることについて、

医学上合理的な根拠に基づいて説明できること。

次に現実に発生した疾病が、接種したワクチンによって起こったとする(具体的結果発生の蓋然性)には、次の要件を必要とすべきである。

〈3〉 第三要件

接種から発症までの期間が、好発時期、あるいはそれに近接した時期と考えられる中に入ること。

〈4〉 第四要件

少なくとも他の原因による疾病と考えるよりは、ワクチン接種によるものと考える方が妥当性があること。

(3) そして、本件については右四要件のいずれも満たさない。

(四) 同3(四)は争う。

本件は、仮に原告らの主張する四要件に従ったとしても、次のとおり、第三要件のうちわずか一要件しか満たしておらず、本件接種と原告克治のライ症候群との間には、訴訟上の因果関係を認めることはできない。

(1) 日本脳炎ワクチンのような不活化ワクチンについては、原則として接種直後から二四時間以内に副反応が起こるといわれており、個体差を考慮してもせいぜい四八時間以内が限度であるから、四八時間を超えて発症した場合には、時間的・空間的密接性があるとはいえない。そして、原告克治がライ症候群を発症したのが本件接種から四八時間をはるかに超えた後のことであるから、時間的・空間的密接性があるとは到底いえない。したがって、第一要件は満たさない。

(2) 原告克治のライ症候群の原因として、風邪様症状を呈する各種のウイルス感染又は風邪薬等の投与など他に原因となるべきものが十分に考えられる。したがって、第二要件も満たさない。

(3) 原告克治が呈した症状は、高度の肝機能障害を伴う急性脳症の症状であり症状としては激烈といわざるを得ないから、第三要件は満たすと考えられる。

(4) 日本脳炎ワクチンの接種によって肝機能の高度の障害を伴う急性脳症、すなわちライ症候群が発症することはないと考えられる上、日本脳炎ワクチンの接種によってライ症候群が発症するなどという仮説を医学上合理的な根拠に基づいて説明することはいまだなされていないのであるから、日本脳炎ワクチンの接種によってライ症候群が発症するという見解は、実験・病理・臨床などの観点からみて、科学的・学問的に実証性・妥当性は全くないといわざるを得ない。したがって、第四要件も満たさない。

4  請求原因4(責任)の事実について

(一) 同4(一)(安善確保義務違反による債権不履行責任)の事実について

(1) 同4(一)(1)の事実は認める。

(2) 同4(一)(2)の事実は認める。ただし、本件接種については、法六条により予防接種を受けるべき者と指定された者に対してのみ、その接種を受ける義務を課している。

(3) 同4(一)(3)は争う。

そもそも安全配慮義務とは、ある法律関係に基づいて特別な社会的接触の関係に入った当事者間において、当該法律関係の付随義務として当事者の一方又は双方が相手方に対して信義則上負う義務とされている。

したがって、国が予防接種の被接種者に対して安全配慮義務を負うためには、その前提として、国と被接種者との間に、「ある法律関係に基づいて特別な社会的接触の関係」が存することが必要となる。この「ある法律関係に基づいて特別な社会的接触の関係」とは、私法上の雇傭契約関係や請負契約関係、公法上の公務員の勤務関係において見られるような継続的、身分的、特殊的な基本的法律関係が存在し、かつ、安全配慮義務が右基本的法律関係の付随的義務としてとらえられる場合を指すものと解すべきである。しかるに、国と被接種者との間には右のような基本的法律関係が存しないのであるから、「ある法律関係に基づいて特別な社会的接触の関係」に入ったという関係は成立し得ず、国が予防接種の被接種者に対して安全配慮義務を負うことはない。

(4) 同4(一)(4)の事実中、ワクチンは病原微生物が産出する毒素を無毒化したもので、劇薬に指定されており、通常大なり小なり副反応を伴っており、まれに致死あるいは脳炎など重篤な後遺症をもたらすことがあること、予防接種によって極めてまれに前記のような重大な被害が発生することが古くから医学界及び公衆衛生当局によって知られていたこと、予防接種は、医療上の治療行為と異なり、被接種者が現実に病気に罹患している場合に、その生命身体に対する現実の危険を排除するために実施されるものではなく、医療上の治療行為には生命身体のより重大な具体的危険を排除するため生命身体のある程度の危険を冒しても治療を行うことが許される場合があること及び法上の予防接種の場合、国民は法律上接種を受けるよう義務付けられることは認め、その余の事実は争う。

(5) 同4(一)(5)は争う。

(二) 同4(二)(厚生大臣の故意または過失による国家賠償法一条の責任)の事実について

(1) 同4(二)(1)の事実は行政責任として認める。

(2) 同4(二)(2)の事実中、本件接種が機関委任事務であることは認め、その余は争う。

(3) 同4(二)(3)の事実中、冒頭部分は争う。

〈1〉 〈1〉(未必の故意)は争う。

公務員の職務行為の違法性の本体は、結果ではなく職務行為自体の違法と解すべきであるから、事故の結果だけからさかのぼって予防接種の違法を論ずることは相当ではない。そして、故意や過失の有無は客観的な違法行為(職務行為の違法)の存在を前提としてそれとの関連でのみ論じられるものである。本件接種は、法、同法施行令、同法施行規則、実施規則等の関係法令に則って行われたもので、合法かつ正当な根拠を有するのであるから、違法行為の存在しない本件接種において、厚生大臣に未必の故意が成立する余地はない。予防接種によりごくまれに重篤な副反応が生じ得る可能性を厚生大臣が認識していたとしても、そのことだけから同人に未必の故意があるとか違法行為があるとすることはできない。

〈2〉 〈2〉(推定される過失)は争う。

原告らの主張する過失の推定に関する一般的な理論は、一般的に事件の外形的な事実関係から、特別のことがない限り被告に過失があったであろうと考えられる場合に直接証拠なしに被告の過失を認めるための理論であり、高度の蓋然性を有する定型的事象経過が存在することを前提とし、通常は多数の裁判例の積み重ねによって成立するものである。しかるに、本件では原告ら主張の義務違反自体が存在せず、定型的事象経過も存在しないので、右理論を適用する前提がない。また、国家賠償法一条一項の規定によれば、同項にいう公務員の過失の存在については、賠償を請求する者においてその立証責任を負うものと解すべきであり、本件においてはその立証責任を転換すべき合理的理由はない。

〈3〉 〈3〉(具体的過失)は争う。

被告は、禁忌事項を適正に定めているし、予防接種実施主体等に対して、予診の励行を義務づけることにより禁忌該当者を発見し、これらの者を予防接種対象者から除外する等して副反応事故の発生を防止するよう指導監督に努めてきた。また、被告は、予防接種副反応被害の存在について、早くからその事実を公表し、接種担当医師を始め関係者への注意を喚起してきたし、禁忌の意義・判断方法についても、市町村長に対し、担当医師への周知徹底を指示する一方、医師に対する周知を図ってきた。さらに、被告は、被接種者、保護者らに対して禁忌等予防接種に関する注意事項の周知徹底に努めてきたし、ワクチンの副反応についても、一般的な副反応について周知せしめるとともに、重篤な副反応の発生は公表してきた。

(三) 同4(三)(実施主体の過失による国家賠償法一条の責任)の事実について

同4(三)の事実中、冒頭部分は争う。

(1) 同4(三)(1)は争う。

(二)(3)〈2〉と同旨。

(2) 同4(三)(2)の事実中、本件接種担当医師に、接種事故を未然に防止すべき義務があったことは認め、その余は争う。

(四) 同4(四)(接種担当者の過失による国家賠償法一条の責任)の事実について

(1) 同4(四)(1)は争う。

(二)(3)〈2〉と同旨。

(2) 同4(四)(2)は争う。

〈1〉 問診票の活用について

本件接種においては、接種担当医師の予診の補助手段として問診票が活用されていた。問診票による問診は、質問及び回答がいずれも文書で行われるため、口頭による問診に比べてより確実性のある、正確な問診が可能となる。

本件接種においては、問診票の配布に先立って保護者に配布された予防接種申込書の裏面に、禁忌者や問診票記入上の注意事項等が記載されており、問診票記入上の注意事項については、正確に記載するよう保護者の注意を喚起していたものである。しかも、原告克治は、本件接種までに日本脳炎を含め合計七回の予防接種を受けていることなどからして、原告宗明及び同秀子は、問診票の記載は正確に行わなければならないということにつき注意を喚起されたりして、問診票の重要性を認識していたことが推認される。

したがって、本件接種においては、問診票の記入が正確になされるよう十分な配慮がなされており、しかも、原告克治の問診票についていえば、その記載は十分信頼するに足りるものであったといえる。

そして、本件接種における原告克治の問診票の問診項目の全てについて、異常がない旨の記載がなされており、体温についても三六・五度Cと記載されていた。

〈2〉 鴨島小学校の協力体制

鴨島小学校では、保健婦の資格を持った養護教諭が児童の日ごろの健康状態を把握しており、また、本件接種当日も、同養護教諭の指導の下、担任教諭らが問診票の記載内容の確認、被接種児童の予防接種直前の検温及び健康観察を行い、その結果異常がある場合は、その旨予防接種の担当医師に伝えて、その判断を仰ぐ体制が整っていた。

そして、原告克治については、同養護教諭が把握している日ごろの健康状態には異常がなく、原告克治の担任である川村文子教諭による問診票の記載内容の確認、予防接種直前の検温及び健康観察の結果にも異常がなかった。

〈3〉 本件接種担当医師の予診状況

鴨島小学校では、問診票に異常がある旨ないしあった旨の記載のない児童のみをまとめて接種担当医師の前に整列させ、これらの児童の問診票は、一括して担任教諭から接種担当医師に手渡され、接種担当医師はこの問診票を一枚ずつ点検し、右趣旨の記載がないことを改めて確認した。そして、問診票に右趣旨の記載のない児童は、上半身裸になって接種担当医師の前に立ち、接種担当医師は、児童本人あるいは立ち会っている担任教諭に対して児童の健康状態を尋ねるとともに、児童の顔や上半身を見て、視診によって異常な点がないかどうかを確認したり、児童の体に手を触れて、触診によって異常な点がないかどうかを確認した。その時点で異常があると思われた児童については、更に聴打診や口腔内の視診が行われた。そして、これらの予診を行った後、接種担当医師が日本脳炎ワクチンを接種してもよいと判断すると、児童に日本脳炎ワクチンの接種を行った。

なお、本件接種当日、鴨島小学校で児童の予診や日本脳炎ワクチンの接種をした医師は四名であるが、いずれも予防接種に関しては経験豊富な医師ばかりであった。

原告克治についても、右に述べたような接種担当医師の予診を受けた結果、接種担当医師が日本脳炎ワクチンを接種してもよいという判断を下し、本件接種を受けたものである。

〈4〉結論

以上のとおり、本件接種においては、予防接種につき経験豊富な医師によって問診、視診、触診等の予診が実施されている上、事前の問診票への記入、養護教諭による日ごろの健康状態の把握、担当教諭による問診票の記載内容の確認、被接種児童の予防接種直前の検温及び健康観察などとあいまって、禁忌者を識別するための必要にして十分な予診は尽くされていたものといえる。

(五) 同4(五)(損失補償責任)の事実について

(1) 同4(五)(1)の事実は否認する。

本件接種は法六条に基づき実施されたものであるから、法三条を引用する必要はないし、また、法二六条が罰則を課しているのは、同条により明らかなとおり、緊急臨時の予防接種を受けなかった場合のみであるから、本件接種については罰則が適用される余地はない。さらに、日本脳炎は人から人への感染は成立しないので、日本脳炎予防接種は社会防衛・集団防衛が目的ではなく、個人防衛が目的である。

(2) 同4(五)(2)は争う。

憲法二九条三項の位置付けないし趣旨、目的にかんがみると、そもそも生命、身体被害の場合に同条の中から同条三項のみを取り出してこれを類推し、生命、身体被害に対する損失補償の道を開こうとする発想そのものが強く批判されるべきである上、もし生命、身体に対して、財産権の場合に損失補償が必要とされる特別の犠牲と同じ意味での特別の犠牲を課するとすれば、それは違憲、違法な行為であるとして国家賠償法一条に基づく損害賠償の法理で解決されるべきであって、もともと、財産権に対する特別の犠牲と生命、身体に対する特別の犠牲とを価値的に比較評価して、後者についても損失補償法理で解決しようとすること自体、法理論上根本的な誤りを犯すものであるといわなければならない。

また、本件予防接種事故に対する憲法二九条三項の(類推)適用の可否を、直接右条項に基づく損失補償請求権の要件及び効果の観点からみても、本件予防接種事故が財産権にかかる損失補償請求権の要件の中核をなす特別の犠牲と同じ意味で生命、身体に対する特別の犠牲に当たるとするには法理論上多大の疑問があって、これを否定せざるを得ない。その上、仮に、憲法二九条三項が生命、身体に対する特別の犠牲に当たるとする見解を採ったとしても、本件予防接種事故の場合の正当な補償について、その意義、算定方法を司法の場において法的安定性を確保するに足りるだけの一義的明確性をもって認定判断することは法理論上著しく困難であるといわなければならず、結局、直接憲法の右条項に基づく損失補償請求権の要件及び効果の観点からみても、本件予防接種事故について憲法二九条三項を(類推)適用することは著しく困難であり、法理論上否定されるべきであるといわざるを得ない。

(3) 同4(五)(3)は争う。

5  請求原因5(損害ないし損失)の事実について

(一) 同5(一)の事実中、2(一)(接種後の状況)及び(二)(現在の症状)記載の事実並びに原告克治の精神障害状態、運動機能に関する事実についての認否は2記載のとおり。両親の被害状況については不知。

(二) 同5(二)の事実は不知。

三  抗弁

1  違法性の不存在

国民に対する疫病のまん延を防止するという予防接種実施の必要性にかんがみると、予防接種法、実施規則等の法令に基づいて予防接種がなされている限り、予防接種を実施した結果、不幸にも重篤な副反応や後遺障害が発生したとしても、原則として違法性は存しないものといえる。

国家賠償法一条一項の損害賠償については、公権力の行使が職務上の義務、すなわち行政法規の定める要件と手続により認められる行為規範に違反した場合に違法性が認められることになる。したがって、予防接種が、予防接種法、実施規則等の法令に基づいて実施されている場合、当該予防接種は行政法規の定める要件と手続きにより認められる行為規範に従ったものといえるのであって、違法性は存せず、国が国家賠償法一条一項の損害賠償責任を負うことはないものと解される。また、安全配慮義務違反による損害賠償責任についても、その本質が債務不履行責任である以上、不履行が違法であることが必要であるところ、もともと「許された危険」を内在する予防接種において、それが、予防接種法、実施規則等の法令に基づいて実施されている以上、国が安全配慮義務違反による損害賠償責任を負うというようなことは通常認めがたいといわなければならない。

本件接種は、予防接種法、昭和五三年厚生省令第四七号による改正前の実施規則等の法令に基づいて、かつ、右各法令に定める要件と手続に則って行われたものであって、被告が国家賠償法一条一項の損害賠償責任及び安全配慮義務違反による損害賠償責任を負うことはない。

2  消滅時効

(一) 国家賠償法一条一項の損害賠償請求権の消滅時効について

原告宗明及び同秀子は、昭和五六年二月二八日、法一七条一号の医療費及び医療手当並びに同条二号の障害児養育年金を鴨島町長に請求しているから、遅くとも同日までには、損害及び加害者を知ったものといえる。したがって、原告らの損害賠償請求権は、民法七二四条前段の三年の消滅時効の完成により消滅したものといえるから、被告は右時効を援用する。

(二) 損失補償請求権の消滅時効について

(1) 会計法三〇条後段の五年の消滅時効について

原告克治は、昭和五三年五月二四日に本件接種を受け、同月二八日に突然意識を消失して倒れたというものであり、同日をもって法律上の障害なく損失補償を請求できるようになったものと解され、昭和五三年五月二八日から原告らの損失補償請求権の消滅時効が進行することとなるので、原告らの損失補償請求権は会計法三〇条後段の五年の消滅時効により消滅したものといえる。したがって、被告は右時効を援用する。

(2) 民法七二四条前段の類推適用による三年の消滅時効について

2において述べたのと同様、原告らの損失補償請求権についても、遅くとも昭和五六年二月二八日から民法七二四条前段の三年の消滅時効が進行することとなり、同日から三年の経過により時効消滅したものといえる。したがって、被告は右時効を援用する。

3  救済制度の存在(損失補償請求について)

予防接種事故に対する救済制度を定めた昭和五一年改正後の法一六条以下及びその委任を受けた令及び規則は補償規定そのものであり、右補償規定において補償原因、補償内容、補償額の確定手続、補償の申請手続等が詳細に定められており、右補償規定に定められた補償内容、補償額は、立法者の意思として予防接種事故一般に対する補償の上限を画するものであることは明らかである。したがって、憲法二九条三項の類推適用の観点からみた場合であっても、右救済制度が存する以上、直接憲法二九条三項に基づき、これとは別途の、又はこれを上回る損失補償請求をするというようなことは許されないというべきである。

また、法一六条一項、一七条、一八条一項及び給付の内容、額を定めた令の各規定の趣旨、目的にかんがみると、支給決定の効力は、当該支給決定の内容が当該予防接種事故に対する補償の給付内容、額の上限を画することとなり、それとは別個の、又はそれを上回る補償請求は許されないという効果をも有するものというべきである。そうすると、支給決定は、予防接種事故に対する補償の給付内容、額の上限を画する効力を有するものであるから、支給決定を受けた者が、行政不服審査法に基づく審査請求や処分の取消しの訴え等の公告訴訟の方法によってその効力を排除することなく、それとは別途の損失補償請求をするというようなことは、たとえ憲法二九条三項に基づいてするものであっても、支給決定の公定力に反し許されないといわなければならない。のみならず、右のような損失補償請求は、その実質において、支給決定の給付内容、額に対する不服をその内容とするものであり、このような行政処分の内容に対する不服の訴訟は、行政事件訴訟法一ないし三条の規定に照らして、専ら抗告訴訟で争うべきであり、これを民事訴訟で争うことは本来許されないというべきである。

4  過失相殺等

原告らの主張する、原告克治が、〈1〉アレルギー体質で、たえず背中に発疹ができ、肌がかさかさしていたこと、〈2〉暑さに弱く、汗をかかない特異体質であったことは、昭和五三年厚生省令第四七号による改正前の実施規則四条四号の「接種しようとする接種液の成分によりアレルギーを呈するおそれがあることが明らかな者」又は一〇号の「前号に掲げる者のほか、予防接種を行うことが不適当な状態にある者」に該当する可能性があるが、原告宗明ないし同秀子は、右事由を本件接種の問診票に記載すべきであったのにこれを怠ったということになる。そうすると、被告が、国家賠償法一条一項の損害賠償責任、安全配慮義務違反による債務不履行責任を負うことがあったとしても、原告宗明ないし同秀子は問診票に所要の記載を怠ったことにつき過失があったものというべきであるから、過失相殺の適用がある。また、被告が、憲法二九条三項等による損失補償責任を負うことがあったとしても、右過失を損失額の算定において被告に有利に斟酌すべきである。

5  損益相殺等

原告らが本件接種による副反応事故に起因して給付を受けたことになる別紙「美馬克治に関する給付済額一覧表」記載の各給付のうち、予防接種法に基づく障害児養育年金及び障害年金、特別児童扶養手当等の支給に関する法律に基づく特別児童扶養手当、障害児福祉手当及び特別障害者手当、国民年金法に基づく障害基礎年金は、損益相殺の法理により、原告らの損害額又は損失額から控除されるべきである。

なお、予防接種法に基づく医療費及び医療手当の給付については、右控除の主張をしない。

四  抗弁事実に対する認否

1  抗弁1(違法性の不存在)の事実は争う。

予防接種が法令に基づいてなされているからといって、そのことにより、厚生大臣が過失責任を免れることができないことは余りに当然である。

2  抗弁2(消滅時効)の事実は否認する。

民法七二四条の加害者を知りたる時とは、単に損害発生の事実を知ったのみでは足りず、加害行為が不法行為であることを知った時であると解すべきであるところ、本件事故が厚生大臣の過失行為に基づく違法なものであることを原告らが知っていたはずがない。

また、原告らは、予防接種事故に対する救済措置を受けているが、右救済措置は行政上の措置であり、予防接種が違法であることを前提とはしないものであるから、原告らが町長に請求したからといって、直ちに原告らが、本件事故が厚生大臣の過失に基づく違法なものであることを知っていたことにはならない。

3  抗弁3(救済制度の存在)の事実中、予防接種事故に対する救済制度を定めた昭和五一年改正後の法一六条以下及びその委任を受けた令及び規則は補償規定であることは認め、その余は争う。

憲法二九条三項によって被害者の損失補償請求権が認められる以上、補償に関する法律が制定されていても、被害者は、正当な補償額と法律による補償額との差額を請求できることは当然である。立法・行政が「正当補償」に充たない補償額の法令を作れば、憲法上の要件であったはずの「正当補償」を潜脱できるなどということは、「法の支配」を守る司法として見逃すことのできない事態であり、憲法上の役割の放棄といってよい。補償立法がないため憲法二九条三項に基づいて直接請求ができたはずの「正当な補償」が、その後「正当な補償」に充たない立法がなされれば、裁判所はそれを尊重して減額すべきであるなどという論理は、到底容認されるものではない。

4  抗弁4(過失相殺等)の事実は否認する。

原告らは、問診票の重要性について、被告らから教えられていなかったのであるから、問診票の記載について、すべての事項について異常なしと記載したからといって、原告らに過失があるとはいえない。被告が保護者らに対し、十分に予防接種関係の情報を伝えなかったことに重大な問題があるのであるから、被告の過失相殺の主張は、自らの予防接種の実施体制の不備を保護者に転嫁するものであり、不当である。

5  抗弁5(損益相殺等)の事実中、原告らが別紙「美馬克治に関する給付済額一覧表」記載のとおりの給付を受けていることは認める。

原告らの請求は一部請求であるので、仮に損益相殺されるとしても、原告らの損害額合計から控除されるべきである。

第三証拠

〈証拠略〉

理由

第一当事者(請求原因1)について

請求原因1(当事者)の事実は当事者間に争いがない。

第二事故の発生(請求原因2)について

一  請求原因2(一)の事実中、原告克治が救急車で麻植協同病院へ運ばれた年月日、直ちに救急車で麻植協同病院へ運ばれたが、徳島大学附属病院に転送されたことについては当事者間に争いがなく、〈証拠略〉によれば、その余の事実が認められる。

二  同2(二)の事実中、原告克治は、知能・運動機能を破壊され、回復の見込みはないこと、原告克治の精神状態が、極く簡単な内容は理解できるが、発語はない状態であり、運動機能が、走行(平地)不能、起立位不能、座位不能及び握力測定不能の状態であること、したがって、食事を与えてもらうこと、おむつをつけ排便の世話をしてもらうこと、入浴の世話をしてもらうことなど、日常生活全般にわたって一切の介護をしてもらっている状態であることは当事者間に争いがなく、〈証拠略〉によれば、その余の事実が認められる。

第三因果関係(請求原因3)について

一  一般に、訴訟上の因果関係の立証は、一点の疑義も許されない自然科学的証明ではなく、経験則に照らして全証拠を総合検討し、特定の事実が特定の結果発生を招来した関係を是認しうる高度の蓋然性を証明することであり、その判定は、通常人が疑いを差し挟まない程度に真実性の確信を持ちうるものであることを必要とし、かつ、それで足りる(最高裁昭和五〇年一〇月二四日第二小法廷判決民集二九巻九号一四一七頁参照)。

ところで、原告らは、本件のように予防接種とその後に発生した一定の症状との間の因果関係の有無については、医学者である白木博次が提唱したいわゆる白木四原則、すなわち、〈1〉ワクチン接種と予防接種事故とが時間的、空間的に密接していること、〈2〉他に原因となるものが考えられないこと、〈3〉副反応の程度が他の原因不明のものによるよりも質量的に非常に強いこと、〈4〉事故発生のメカニズムが実験・病理・臨床等の観点から見て、科学的、学問的に実証性があることが充足されれば、右にいう高度の蓋然性が証明されたものとして、これを認めるべきであると主張する。当裁判所も、特殊な場合以外は病理学的な因果関係が不明とされている本件のような予防接種後の事故については、右の白木四原則をもって因果関係存否の判断基準とすることが合理的であると認める。

二  そこで、本件において、右の白木四原則が認められるかどうかについて、以下判断する。

1  〈証拠略〉によれば、以下の事実が認められる。

(一) 原告克治は、小学校一年生で六歳の昭和五三年五月二四日、通学先の鴨島小学校で本件接種を受けた。本件接種当日の朝、原告克治は、自宅で体温を計ったところ、三六度Cくらいの平熱であり、その他特に健康状態に問題はなかった。

(二) 本件接種後、原告克治は、同月二七日までは元気で普通に生活していた。

そして原告克治は、同月二八日、オリエンテーリングに出掛けるということで、朝九時ころ少年の森という所へ出掛けた。少年の森に着いてからまもなく、原告克治は、暑いと言いだし、与えられた水を飲んでいたところ、水の入ったコップを落として倒れ、白目をむいて口から泡を吹き、心臓をどきどきさせて意識を失った。原告克治は、救急車で同所から麻植協同病院へ運ばれたが、専門的な医師のいる徳島大学医学部附属病院(以下「徳大病院」という。)へ転送された。転送される救急車の中で、原告克治は少し意識を戻し、また、徳大病院へ着いてからいったん自分の名前も言ったが、その後、急に大きな声を出してから昏睡状態に陥った。

(三) 入院時、原告克治には、高熱、意識障害(嗜眠状態)、けいれんが認められ、髄液検査では細胞数が正常であるのに対して、髄液圧は顕著な亢進状態にあった。また、昭和五三年五月二九日及び同月三〇日の血液検査では、GOT、GPT、LDHの各検査数値に急激な上昇が認められた。しかし、原告克治には肝生検は実施されなかった。

(四) 医学上、日本脳炎ワクチン予防接種によって、まれに急性脳症が発症することがあるとされている。急性脳症とは、明らかな病理解剖学的異常がないにもかかわらず、意識障害、けいれんなどの脳障害の症状を呈するもののうち、乳幼児にみられる予後不良な重篤な疾患である。この急性脳症の臨床症状は、発熱、意識障害、けいれんなどで、検査所見上髄液が脳圧亢進症状を呈する以外とくに炎症所見はみられない。原告克治は、GOT等の検査数値から肝機能の障害が認められるものの、高熱、意識障害(嗜眠状態)、けいれん等から急性脳症であると判断された。

(五) 原告克治は、徳大病院に半年くらい入院してから自宅で療養しているが、退院当初から言葉は全く話せず、手足も動かせず硬直したままで、自分で寝返りができず、日に二、三回から一〇回くらいけいれんを起こしている。

(六) わが国の権威ある学者等で構成される公衆衛生審議会において、予防接種被害の認定作業が行われているが、右の審議会において、原告克治の障害と本件接種との因果関係が認められ、その結果原告克治は、昭和五七年六月二八日、厚生大臣から本件接種による被害者であるとの法一六条による認定を受けた。

2  以上認定の各事実を総合すると、原告克治の障害は、本件接種から四日後に発症したもので、本件接種以外に原因となるものは特にみられず、発症した症状は非常に重篤な障害で、日本脳炎ワクチンによってまれに生じることがあるとされている急性脳症の症状を呈しているものであって、前記一の因果関係を肯定するための白木四原則をいずれも満たすものであるから、本件接種との間に因果関係を肯定するのが相当である。

四1  被告は、〈1〉本件接種のような不活化ワクチンの場合には原則として接種後二四時間以内に副反応が起こるといわれており、個体差を考慮してもせいぜい四八時間以内が限度であって、原告克治が発症したのが接種後四日後であるから、第一の要件を満たさない、〈2〉インフルエンザウイルスはライ症候群の有力な原因と考えられるが、原告克治には当時風邪を引いていたと疑われる症状が存し、したがって、本件接種以外に他に原因となるべきものも存在が十分に考えられるから、第二要件を満たさない、〈3〉原告克治の臨床及び検査所見において肝機能の高度の障害がみられることから、原告克治が本件日本脳炎ワクチン接種後に呈した症状は、急性脳症のうちでも右の症状を伴うものであるライ症候群と認められるべきであるが、日本脳炎ワクチン接種によってライ症候群は発症しないと考えられるから、第四要件を満たさない、したがって、原告克治の発症と本件接種との間には因果関係が認められないと主張する。

2  しかしながら、以下の理由により被告の主張は採用できない。

(一) 第一要件について

〈証拠略〉によると、昭和四〇年及び四一年度に、沖中重雄医師らにより、対象者を定めず広く全国的な情報網をはり、日本脳炎ワクチン接種後、神経症状を示した症例を集め、死亡者があれば剖検して種々検討を加えるという研究が行われたが、これによると接種後一か月以内に発症した脳症と考えられる症状を示した症例は三例報告されており、ワクチン接種後神経症状発現までの期間はそれぞれ二日、三日、一九日であったことが認められる。また、日本脳炎ワクチンの副反応としての急性脳症は、それが不活化ワクチンであることから、ワクチン自体によるものではなく、アレルギー性反応によるものであるから、接種後四八時間以内に発症することが多いといわれているものの、時間の経過に伴い発症の可能性は薄れるというにすぎず、発症の可能性の時的限界を明確に線引きすることはできないことが認められる。そうすると、被告の主張するところは、あくまでも一応の目安であって、その後の発症が全て日本脳炎ワクチン接種と無関係であるとは断定できず、しかも右の報告のように、発症までに一九日を経過した例もあることからすると、原告克治の場合に本件接種後四日後に発症したことは合理的期間内におさまっていると評価でき、接種と障害が時間的に密接していないとはいえないというべきである。

(二) 第二要件について

確かに原告克治の徳大病院におけるカルテ〈証拠略〉には、原告克治は、発症の前日(昭和五三年五月二七日)から風邪気味で、熱はないものの咳をしていたとの記載があるが、〈証拠略〉によると、徳大病院の医師高橋俊顕は、原告克治が入院した翌日の二九日に咽頭培養の検査で細菌及び真菌検査を行った結果、常在菌が出ただけであったこと、また、同年五月三一日の血清と同年六月二一日の血清のウイルス血清学的検査を行った結果、ムンプス(おたふくかぜ)とかアデノウイルス(ウイルスの一種)、ヘルペス(単純疱疹)について特に変化はなく、インフルエンザBのウイルスについても特に顕出されなかったことが認められる。このような事実からすると、原告克治がインフルエンザウイルスに感染していたと疑われる事情は認めることができず、その他、原告克治の障害について、具体的に疑われる他の原因となるべきものの存在は考えられないというべきである。

(三) 第四要件について

(1) 〈証拠略〉によれば、以下の事実が認められる。

〈1〉 予防接種の副反応の発生機序は現在の医学の水準をもってしても未だ充分に解明されていない。また、どのような予防接種によってどのような副反応が発生するかも全て知られているわけではない。

〈2〉 ライ症候群とは、急性脳症のうち肝脂肪変性すなわち肝細胞の中に脂肪がたまる状態を伴うもので、臨床症状としては、意識障害、けいれん、嘔吐などがあり、検査所見としては、GOT、GPTの上昇等が見られる。ライ症候群であるとの確定診断は、肝生検(肝臓に直接針を刺し、肝細胞を採取して行う検査)で肝脂肪変性などの特徴を認めたときに初めて下される。肝臓の脂肪変性が肝生検で確認できない場合は、ライ症候群と確定診断することはできず、臨床的ライ症候群と診断することが一般的である。ライ症候群もインフルエンザウイルス、水痘のウイルスやアスピリンなどの薬物がその原因として疑われているが、明確な原因は現在のところ明らかにされていない。

〈3〉 橋本俊顕は、原告克治が徳大病院に入院したときから治療を担当している医師であるが、同人が昭和五三年五月二九日及び三〇日に原告克治から採血して生化学検査を行った結果、正常値がGOTは一五から三七(KU)、GPTは四から三五(KU)、LDHは四九から八八(MIU)であるのに、原告克治のそれは、二九日には、GOTが一三〇五(KU)、GPTが六三六(KU)、LDHが二八七〇(MIU)となっており、三〇日には、GOTが三五八〇(KU)GPTが二三八五(KU)、LDHが四五〇五(MIU)であった。

一般に、右GOT等の数値が高くなっているということは脂肪肝を疑わせるものである。しかし、橋本医師は、原告克治の当時の状況からして身体に悪影響があると思われたため、肝生検を行わなかった。

したがって、同医師は脂肪肝とは断定していない。

〈4〉 橋本医師は、右のように原告克治の発症第二日目の血液生化学検査でGOT等が異常な高値を示し、発症第三日目の同検査ではこれがさらに上昇していることから、このような急激な肝機能の障害を示すものとしては、急性肝炎、劇症型の肝炎かもしくはライ症候群であると考えた。劇症肝炎を起こすのは、B型肝炎と、ノンA、ノンBの肝炎で考えられるところであるが、橋本医師は、B型肝炎については検査してその抗原がないことを確認したものの、当時はノンA、ノンBの肝炎という概念が充分形成されていなかったこともあり、これらについては検査していない。その他、多発性臓器不全症候群が考えられたが、橋本医師は原告克治の症状からこれは否定されると考えた。

〈5〉 そして、橋本医師は、臨床症状、肝機能障害の出方、少し出血傾向があったことなどから、一応臨床的に考えてライ症候群ではないかと判断した。しかし、右判断は肝生検を行っていないので確定診断ではない。

〈6〉 原告克治が本件事故が発生するまで元気でいたこと、強く嘔吐したような症状もなかったことなどから、原告克治には本件障害の原因となったと思われる基礎疾患といえるようなものは認められない。

(2) 被告が第四要件を否定すべきであるとする理由は、日本脳炎ワクチン接種によってライ症候群は発症しないというにある。そして、その内容を検討すると、ライ症候群の一つの特徴である肝臓の脂肪変性は日本脳炎ワクチンによって生じることはないというにある。しかし、日本脳炎ワクチンによって脂肪変性が生じないことは医学的に解明されているわけではなく、肝臓の脂肪変成は日本脳炎ワクチンによって生じることはないということの理由は、そのような報告が一例もないからということにすぎない。また、原告克治の発症直後の生化学検査結果において、GOT等の値が異常に高くなったことは認められるが、他方、肝生検を実施していないので、右の生化学検査結果が肝臓の脂肪変性を示すものとの断定はなされていない。また、右のGOT等の値が異常に高かったことから、急性肝炎、劇症型の肝炎も疑われていたところであるが、橋本医師はノンA、ノンBの肝炎については抗原の検査をしていないし、肝生検を実施していないことから、原告克治がライ症候群であるという確定診断に至ったわけでもない。

このように、原告克治については、肝生検が実施されていないのであるから、同人の肝臓に脂肪変性が存在したとは断定できないのであり、したがって、同人がライ症候群に罹患していたとも断定できないものである。とすれば、原告克治がライ症候群に罹患していたことを前提に、日本脳炎ワクチンとライ症候群とは医学上結びつかないとして、原告克治の障害と本件接種との間には因果関係がないとする被告の主張は採用するに由ないことが明らかである。しかして、〈証拠略〉によれば、日本脳炎ワクチン接種によって急性脳症が引き起こされた場合に、肝機能にどのような異常が生ずるかについては、確たる調査結果もなく、医学上も明らかにされていないというのであるから、入院時の原告克治の肝機能の数値が異常を示したからといって、このことから直ちに、原告克治の急性脳症と本件接種との間の因果関係を否定することは相当でないといわなければならない。現に、〈証拠略〉によると、予防接種事故の救済としての給付を行うに当たって厚生大臣が意見を聞くこととなっている公衆衛生審議会の予防接種健康被害認定部会において、原告克治と本件接種との因果関係の有無が検討され、急性脳症の症状があること、しかし、非常に顕著な肝障害があること、そうではあるが、はっきりとした他の原因が見つからないことなどを総合勘案して、結局因果関係を認めるとの結論を出していることが認められるし、原告克治の治療に当たった医師である証人橋本俊顕及び国立予防衛生研究所の名誉所員であり特に日本脳炎ウイルスの自然生態学及び予防治療法の研究、ワクチンの開発にかかわってきた証人大谷明の両名は、当裁判所において、原告克治はライ症候群であろうとしながらも、本件事故と本件接種との関係を否定しきれないと証言している。そして、これらの事情に加えて、先にみたとおり、原告克治の障害を惹起したと考えられるところの事情が他に見られないことなどを併せて総合的に勘案すると、前記のようなGOT等の検査結果から、本件事故発生のメカニズムが実験・病理・臨床等の観点から見て、科学的、学問的に実証性がないということにはならないというべきである。

第四接種担当者の過失による国家賠償責任(請求原因4(四))について

一  禁忌者該当の推定について

1  原告克治の後遺障害が本件接種に起因するものと認めるべきであることは右にみたとおりであるが、その場合には、禁忌者を識別するために必要とされる予診が尽くされたが禁忌者に該当すると認められる事由を発見することができなかったこと、被接種者が後遺障害を発生しやすい個人的素因を有していたこと等の特段の事情が認められない限り、被接種者は禁忌者に該当していたと推定するのが相当である(最高裁第二小法廷平成三年四月一九日判決民集四五巻四号三六七頁参照)。

2  そこで、本件において、右特段の事由が認められるかどうかについて検討するに、〈証拠略〉によると次の事実が認められる。

(一) 本件で接種された日本脳炎ワクチンを含め、予防接種は異物(病原体の全部又は一部)であるワクチンを人体に接種するものであって、被接種者に何らかの副反応を生じ、稀にではあってもその副作用によって重篤な副反応が発生することが避けがたい。そして、このような重篤な副反応の発生機序は現在の医学水準をもってしても未だ充分に解明されておらず、その発生を接種前に確実に予知し、これを未然に完全に防止することは不可能な状況にある。そこで被告は、予防接種について、従来から重篤な副反応の発生する蓋然性があると経験的に考えられる特定の身体的状態を概括的に禁忌として定め(ただし、禁忌事項には副反応と紛らわしい症状が発生する可能性がある身体的状態や予防接種が効果を生じないと思われるものも含んでいる。)、これに該当する者を原則として予防接種の対象から除外する行政上の措置を採ってきた。禁忌は、このように経験的なものを基礎として定められたものであるから、予防接種による重篤な副反応が生じる場合を網羅したものとはいえず、たとえ禁忌者に対する接種を回避しても、重篤な副反応の発生を完全に回避することができるとはいえないが、それでもその相当部分は回避することができるものである。

そして、ワクチンの種類が多岐にわたり、かつ、その反応も一様でないため、すべての予防接種に共通する禁忌項目を選択することは容易ではないことに加え、特別な注意を払えば接種が可能な場合があることから、禁忌事項を基本的なものにとどめ、禁忌に該当するか否かを決定するには当該接種を担当する医師の判断を優先させようとの考え方に基づいて禁忌の規定が定められている。

(二) 本件接種時には、昭和五二年の法改正に伴って改正された予防接種実施規則(昭和五二年八月二九日省令第三七号改正)の適用があり、その四条で禁忌が次のように定められていた。

「第四条 接種前には、被接種者について、問診及び視診によって、必要があると認められる場合には、さらに聴打診等の方法によって、健康状態を調べ、当該被接者が次のいずれかに該当すると認められる場合には、その者に対して予防接種を行ってはならない。ただし、被接種者が当該予防接種に係る疾病に感染するおそれがあり、かつ、その予防接種により著しい障害をきたすおそれがないと認められる場合は、この限りでない。

一  発熱している者又は著しい栄養障害者

二  心臓血管系疾患又は肝臓疾患にかかっている者で、当該疾患が急性期若しくは増悪期又は活動期にあるもの

三  接種しようとする接種液の成分によりアレルギーを呈するおそれがあることが明らかな者

四  接種しようとする接種液により異常な副反応を呈したことがあることが明らかな者

五  接種前一年以内にけいれんの症状を呈したことがあることが明らかな者

六  妊娠していることが明らかな者

七  痘そうの予防接種(以下「種痘」という。)については、前各号に掲げる者のほか、まん延性の皮膚病にかかっている者で、種痘により障害をきたすおそれのある者又は急性灰白髄炎、麻しん若しくは風しんの予防接種を受けた後一月を経過していない者

八  急性灰白髄炎の予防接種については、第一号から第六号までに掲げる者のほか、下痢患者又は種痘若しくは麻しん若しくは風しんの予防接種を受けた後一月を経過していない者

九  風しんの予防接種については、第一号から第六号までに掲げる者のほか、種痘又は急性灰白髄炎若しくは麻しんの予防接種を受けた後一月を経過していない者

一〇  前各号に掲げる者のほか、予防接種を行うことが不適当な状態にある者」

この定めは、一号ないし一〇号を禁忌とし、禁忌に該当する者を禁忌者として、これに対する接種を原則として回避する義務を課し、その前提となる禁忌者識別の手段として、問診、視診、聴打診等の方法による予診義務を規定したものである。

(三) 右実施規則四条を受けて、新たに「予防接種実施要領」(昭和五一年九月一四日付け衛発第七二六号通知。以下「実施要領」という。)が定められた。実施要領の「第一 共通事項」においては次のような規定がある。

「6 実施計画の作成

予防接種実施計画の作成に当たっては、地域の医師会と十分協議するものとし、特に個々の予防接種がゆとりをもって行われるような人員の配置に考慮すること。医師に関しては、予診の時間を含めて医師一人を含む一班が一時間に対象とする人員が種痘では八〇人程度、種痘以外の予防接種では一〇〇人程度となることを目安として配置することが望ましいこと。

なお、禁忌に該当するかどうかの判定が困難な場合の一般的な処理方針等についてもあらかじめ決定しておくことが望ましいこと。」

「7 予防接種の実施に従事する者

(1)  接種を行う者は、医師に限ること。多人数を対象として予防接種を行う場合には、医師を中心とし、これに看護婦、保健婦等の補助者二名以上及び事務従事者若干名を配して班を編成し、それぞれの処理する業務の範囲をあらかじめ明確に定めておくこと。

(2)  都道府県知事又は市町村長は、予防接種の実施に当たっては、あらかじめ予防接種の実施に従事する者、特に医師に対して、実施計画の大要を説明し、予防接種の種類、対象、関係法令等を熟知させること。

(3)  班を編成して実施する際には、班の中心となる医師は、あらかじめ班員の分担する業務について必要な指示及び注意を行い、各班員は指示された事項以外は独断で行わないようにすること。」

「9 予診及び禁忌

(1)  接種前に必ず予診を行うものとし、問診については、あらかじめ問診票を配布し、各項目について記載の上、これを接種の際に持参するよう指導すること。

(2)  体温はできるだけ自宅において測定し、問診票に記載するよう指導すること。

(3)  予診の結果異常が認められ、かつ、禁忌に該当するかどうかの判定が困難な者に対しては、原則として、当日は接種を行わず、必要がある場合は精密検査を受けるよう指示すること。

(4)  禁忌については、予防接種の種類により多少の差異のあることに注意すること。

例えば、インフルエンザHAワクチンについては、鶏卵成分に対しアレルギー反応を呈したことのある者に特に注意し、また、百日せきワクチンを含むワクチンについては、けいれんの症状を呈したことのある者に特に注意する必要があること。

(5)  多人数を対象として予診を行う場合には、接種場所において禁忌に関する注意事項を掲示し、又は印刷物を配布して、接種対象者から健康状態、既往症等の申出をさせる等の措置をとり、禁忌の発見を容易にすること。」

(四) 予防接種の禁忌を識別するための予診に際して医師が考慮すべき事項は以下のようなものであるといわれている。

「1 年齢(職業)

2 現在の疾病の有無

(1)  急性疾患

(2)  慢性疾患

(3)  ステロイド剤、免疫抑制療法などの治療

3 既往歴(特に重要なもの)

(1)  出生時の状態

(2)  神経系疾患

4 アレルギー

(1)  特異的アレルギー

(2)  一般的アレルギー性疾患

(3)  湿疹

5 予防接種歴及びその際の副反応

6 家族歴

(1)  特にアレルギー性家系、遺伝性神経疾患

(2)  家族内の湿疹患者

7 妊娠の有無」

(五) 本件接種の状況

(1) 本件に係る予防接種の実施体制

〈1〉 実施日時

昭和五三年五月二四日一三時三〇分受付開始、同一五時一〇分ころ終了。

実施に当たっては、先に鴨島小学校の学童に接種し、学童終了後に一般住民に接種した。

〈2〉 実施場所

徳島県麻植郡鴨島町鴨島五六四番地

鴨島町立鴨島小学校体育館

〈3〉 担当医師及び補助者等

担当医師  糸田信章医師外三名

補助者   阿部幸子外四名

事務従事者 高橋浩外一名

なお、学童の接種には、鴨島小学校養護教諭豊田富子及び各学級の担当教諭が立会した。

〈4〉 接種を受けた員数

接種を受けた者の総数 八八三名

内訳 鴨島小学校児童 五九七名

鴨島小学校教員   六名

一般住民    二八〇名

(2) 本件に係る予防接種の実施過程

〈1〉 予防接種申込書の配布と申込み

鴨島小学校では、予防接種実施の一週間ほど前に全児童に対し保護者あての予防接種申込書を配布した。そして、保護者は、右申込書に申込みの有無を記載し、記名押印の上、学校に提出した。なお、右申込書には、実施日程、費用のほか、禁忌を含む注意事項について記載されていた。

〈2〉 問診票の配布

接種前日担任教諭は、養護教諭から交付された問診票を児童に配布し、問診票を保護者に記載押印してもらって、翌日持参するよう指示した。

〈3〉 問診票の回収

担任教諭は、当日の授業開始時に問診票を回収し、記載内容等を確認の上養護教諭に提出した。

〈4〉 検温

担任教諭は、当日の午前一一時二〇分ころから正午までの間に学級の児童全員について検温を行い、その結果を養護教諭に報告した。

〈5〉 担任教諭による児童の健康観察

担任教諭は、「健康観察表」の記載及び当日の状態(顔色、咳の有無、元気が有るか否か等)を観察した。

〈6〉 接種対象児童の分別

養護教諭は担当教諭と協議し、問診票の記載、検温の結果、担任教諭の健康観察の結果及び全校児童の健康管理に当たる養護教諭として把握している各児童の健康状況を記載した保健調査表等に基づき、接種対象児童をア「異常記載のない児」、イ「異常記載のある児」及びウ「明らかに接種不可の児(有熱者、疾患者等)」に分別した。アの「異常記載のない児」とは、a問診票の問診項目全てにつき異常がない旨の記載があり、b体温(学校における前記の検温も含む。)が原則として三六度九分以下で、かつ、c担任及び養護教諭の健康観察上健康状態が良好であると考えられた児童である。

(3)  接種会場における接種過程

各学級の担任教諭は、児童を引率して接種会場に入り、接種担当医師の前に「異常記載のない児」、「異常記載のある児」とに分けて整列させた。

〈1〉 「異常記載のない児」に対する接種

各学級ごとに、まず、「異常記載のない児」が先に接種を受けた。

その過程は次のとおりである。

ア 問診票の確認

担任教諭は、「異常記載のない児」につき、問診票を一括して接種担当医師に手渡した。そして、医師は同問診票に異常記載のないことを確認した。

イ 接種部位の消毒

補助者(看護婦又は保健婦)は、整列している児童の上腕伸側をアルコールで消毒した。

ウ 問、視診及び接種

接種担当医師は、整列している児童に対し、まず視診を行い、必要に応じ学童本人又は立会している担任教諭に口頭問診を行った上で、接種の適否を判断し、ワクチン液を皮下に注射した。

〈2〉 「異常記載のある児」に対する接種

学級ごとに「異常記載のない児」に対する接種が終了後、「異常記載のある児」に対する接種が行われた。その過程は次のとおりである。

ア 予診

a 問診票の確認

児童本人に問診票を持たせ、各自担当医師に提示し、医師は問診票の記載内容を確認した。

b 問診等

担当医師は、必要な事項を児童本人及び立会の担任教諭に口頭問診した上で、視診、触診、聴打診等を行い、接種の可否を決定した。

イ 予診の結果、接種可と判定された児童については1(三)と同様に接種を行った。

〈3〉 接種後の注意等

担当教諭は、各学級において朝の事務打合せの際、養護教諭から手渡された注意書に基づき、接種後の注意事項について指導した。

〈4〉 一般住民に対する接種

学童の接種終了後、直ちに一般住民に対する接種を開始した(一四時三〇分過ぎ)。

〈5〉 接種終了

一般住民に対する接種の終了によって、本件接種は終了した。

(4)  原告克治に対する接種について

原告克治は、接種当時、鴨島小学校一年一組に在学中であり、同学級の級友とともに本件予防接種を受けた。

右接種に当たり、保護者が記載し学校に提出された同人も問診票には、問診事項すべてにつき「なし」と記載され、体温についても三六・五度Cと記載されており、異常をうかがわせる記載はなかった。また、接種当日の学校における検温も異常がなく、さらに担当教諭及養護教諭による健康観察上も健康状態は良好であった。

したがって、同人は、前記「異常記載のない児」のグループに区分され、同グループの級友とともに「異常記載のない児」に対する接種過程によって本件予防接種を受けた。

3 以上によれば、原告宗明、同秀子には、本件接種の一週間ほど前に禁忌を含む注意事項の記載された保護者あての予防接種申込書と問診票が配布されたとはいえ、それ以上に禁忌についての注意がなされたとはいえない。また、本件接種においては、約一時間四〇分の間に医師一人あたり約二二〇人に対して、児童についてみれば、約一時間の間に医師一人あたり約一五〇人に対して、それぞれ接種が行われているもので、実施要領に定められた医師一人に対する被接種者の目安とされている人数を大きく上回る人数に対して接種が実施されており、児童については、接種する時間を含めて一人当たり約二四秒しかかけられず、したがって、一人の予診にかけることのできた時間は二四秒よりもっと短い時間である。そして、問診票に異常記載のある児に対しては異常記載のない児に対してよりもより時間がかけられたものと考えられるところであるから、問診票に異常記載がなかった原告克治の予診時間はさらに短かったものと推認されるところである。そうすると、原告らに対しては、禁忌の意味、予診の重要さに意を配った行き届いた予診が行われなかったものといわざるを得ず、さらにこのような予診を尽くしていれば、原告克治が禁忌者に該当するなり、後遺障害を発生しやすい個人的素因を有しているなりのことが発見し得た可能性もあるといわなければならない。

したがって、原告克治について、前記の特段の事情があったとは認められないから、本件予防接種において、原告克治は本件接種当時施行されていた規則にいう禁忌者に該当していたものと推定するのが相当である。

二 接種担当者の過失

1 次に接種担当者に、充分な予診を怠った結果、原告克治が禁忌該当者であるのに、この認識を誤った過失があるかどうかについて検討する。

原告らは、原告克治の後遺障害が本件接種に起因するものと認められる本件においては、禁忌者を識別するために必要とされる予診が尽くされたが禁忌者に該当すると認められる事由を発見することができなかったこと、被接種者が後遺障害を発生しやすい個人的素因を有していたこと等の特段の事情が認められない限り、被接種者は禁忌者に該当していたと推定されるだけでなく、接種担当者の禁忌看過の過失もまた、予防接種に起因して後遺障害が発生した事実によって推定されるべきであると主張する。

しかし、禁忌者に該当していたことと禁忌看過とは別の事柄であり、禁忌者に該当していたと推定されることをもって禁忌看過の過失が経験則上認められるものでもないから、接種担当において禁忌者を識別するための予診義務を尽くしたということができるかをさらに検討する必要があるというべきである。

2 ところで、接種担当者が予診義務を尽くしたということができるか否かについて、最高裁昭和五一年九月三〇日第一小法廷判決(民集三〇巻八号八一六頁)は、インフルエンザ予防接種についてではあるが、「インフルエンザ予防接種は、接種対象者の健康状態、罹患している疾病、その他身体的条件又は体質的素因により、死亡、脳炎等重大な結果をもたらす異常な副反応を起こすこともあり得るから、これを実施する医師は、右のような危険を回避するため、慎重に予診を行い、かつ、当該接種対象者につき接種が必要か否かを慎重に判断し、実施規則四条所定の禁忌者を的確に識別すべき義務がある。ところで、右実施規則四条は、予診の方法として、問診、視診、体温測定、聴打診等の方法を規定しているが、予防接種を実施する医師は、右の方法すべてによって診断することを要求されるわけではなく、とくに集団接種のときは、まず、問診及び視診を行い、その結果異常を認めた場合又は接種対象者の身体的条件等に照らし必要があると判断した場合のみ、体温測定、聴打診等を行えば足りると解するのが相当である(実施要領第一の九項二号参照)。

したがって、予防接種に際しての問診の結果は、他の予診方法の要否を左右するばかりでなく、それ自体、禁忌者発見の基本的かつ重要な機能をもつものであるところ、問診は、医学的な専門知識を欠く一般人に対してされるもので、質問の趣旨が正解されなかったり、素人的な誤った判断が介入して不充分な対応がされたりする危険性をももっているものであるから、予防接種を実施する医師としては、問診するにあたって、接種対象者又はその保護者に対し、単に概括的、抽象的に接種対象者の接種直前における身体の健康状態についてその異常の有無を質問するだけでは足りず、禁忌者を識別するに足りるだけの具体的質問、すなわち実施規則四条所定の症状、疾病、体質的素因の有無およびそれらを外部的に徴表する諸事由の有無を具体的に、かつ被質問者に的確な応答を可能ならしめるような適切な質問をする義務がある。

もとより集団接種の場合には時間的、経済的制約があるから、その質問の方法は、すべて医師の口頭質問による必要はなく、質問事項を書面に記載し、接種対象者又はその保護者に事前にその回答を記入せしめておく方法(いわゆる問診票)や、質問事項又は接種前に医師に申述すべき事項を予防接種実施場所に掲示公告し、接種対象者又はその保護者に積極的に応答、申述させる方法や、医師を補助する看護婦等に質問を事前に代行させる方法等を併用し、医師の口頭による質問を事前に補助せしめる手段を講じることは許容されるが、医師の口頭による問診の適否は、質問内容、表現、用語及び併用された補助方法の手段の種類、内容、表現、用語を総合考慮して判断すべきである。このような方法による適切な問診を尽くさなかったため、接種対象者の症状、疾病その他異常な身体的条件及び体質的素因を認識することができず、禁忌すべき者の識別判断を誤って予防接種を実施した場合において、予防接種の異常な副反応により、接種対象者が死亡又は罹患したときには、担当医師は接種に際し右結果を予見しえたものであるのに過誤により予見しなかったものと推定するのが相当である。そして当該予防接種の実施主体であり、かつ、右医師の使用者である地方公共団体は、接種対象者の死亡等の副反応が現在の医学水準からして予知することのできないものであったこと、若しくは予防接種による死亡等の結果が発生した症例を医学情報上知りうるものであったとしても、その結果発生の蓋然性が著しく低く、医学上、当該具体的結果発生を否定的に予測するのが通常であること、又は当該接種対象者に対する予防接種の具体的必要性と予防接種の危険性との比較衡量上接種が相当であったこと(実施規則四条但書)等を立証しない限り、不法行為責任を免れないものというべきである。」としている。そして、右の趣旨は本件のような日本脳炎ワクチン予防接種においても妥当するものというべきである。

3 そこで、検討すると、先に認定した本件接種の状況等の事実からすると、一3のとおり、本件接種において接種担当者は、原告克治に本件接種を実施するに当たり、実施規則四条の禁忌者を識別するための適切な問診を尽くさなかったため、その識別判断を誤って本件接種をしたことになるから、接種担当者は本件接種に際し原告克治の後遺症の結果を予見しえたものであるのに過誤により予見しなかったものと推定するのが相当である。

そうすると、右最高裁判決のいう例外的事由の存在が立証されない限り、被告は不法行為責任を免れないというべきであるが、前記第三の二において認定したとおり、日本脳炎予防接種によって急性脳炎が発症することは一般に知られていたところであったし、原告克治の後遺障害の発症の蓋然性が著しく低く、医学上、当該具体的結果発生を否定的に予測するのが通常であるとはいえなかったものである。また、〈証拠略〉には本件接種の行われた昭和五三年は日本脳炎流行が六年ぶりに復活したかのような記載もあるが、日本脳炎ウイルスの汚染の広がりは本件接種後の同年の六月以降のことであり、その他、本件全証拠によるも、本件接種当時において、わが国又は徳島県で格別に日本脳炎が流行する危険があったとか、原告克治に対する本件接種実施の具体的必要性と予防接種の危険性との比較衡量上接種が相当であったことを認め得る証拠もない。

第五違法性の不存在(抗弁1)について

本件予防接種が実施当時適法に効力を有していた法令や実施規則等に基づき、かつ、右各法令に定める要件と手続に従って行われたものであるとしても、予防接種を実施するうえでの注意義務を怠り、被接種者に重篤な健康への被害をもたらした場合に国家賠償法上の責任を負うことはもとより当然であって、単に、予防接種の実施が法令等に基づく行為であるということから、その生じた結果すべてが社会的に相当な行為として是認され、その違法性が阻却されるということにはならないことは明らかである。したがって、被告の抗弁1は理由がない。

第六国家賠償法一条一項の損害賠償請求権の消滅時効(抗弁2(一))について

原告克治が本件接種を受けた後に発症し、原告宗明及び同秀子が、昭和五六年二月二八日に鴨島町長に対し、法一七条一号の医療費及び医療手当並びに同条二号の障害児養育年金を請求したこと、原告らが同日から三年以上経過した昭和六〇年六月二〇日に本件訴訟を提起したことは〈証拠略〉上明らかである。

しかしながら、民法七二四条前段の短期消滅時効が完成するためには、被害者が「加害者」を認識していたこと、本件についていえば、原告らが本件事故が接種担当者の不法行為に基づくものであることを認識していたことが必要であるところ、原告らにおいて、鴨島町長に対して右各請求をした当時、本件事故が被告若しくは接種担当者の不法行為に基づいて生じたことを認識していたことを認めるに足りる証拠はない。したがって、被告の抗弁2(一)の主張は採用できない。

第七損害

一  得べかりし利益の喪失

原告克治の現在の病状が第二の二の状況であることに照らすと、労働能力喪失率は一〇〇パーセントと認めるのが相当であり、原告克治は本件接種によって本件事故にあわなければ、一八歳から六七歳までの四九年間就労して、その間少なくとも、毎年四七五万三九〇〇円(当裁判所に顕著である平成五年度賃金センサス第一巻第一表の産業計、企業規模計の全労働者平均賃金)の収入を取得することができたにもかかわらず、これを喪失したものと推認されるから、右額を基礎として、ライプニッツ式計算法により年五分の割合による中間利息を控除して、右期間の得べかりし利益の喪失額の現価を求めると、その額は四八〇九万五二〇六円となる。

四七五万三九〇〇円×一〇・一一七=四八〇九万五二〇六円

二  介護費

原告克治の介護の状況に照らすと、発症後死亡するに至るまでその生涯にわたり日常生活に全面的に介護を必要とするものと推認され、右要介護期間は、原告克治の本件接種時の年齢と同年齢の者の平均余命期間(当裁判所に顕著である平成五年簡易生命表によることとし、一年未満は切り捨てる。)に一致すると認めるのが相当である。そして、右介護に費やされる労務を金銭に換算すると、介護の開始時点から本件口頭弁論終結時である平成六年の満年齢時までは、年に一二〇万円の介護費用を要したと認めるのが相当である。また、それ以後の期間については、年に一八〇万円を要すると認めるのが相当である。これらの金額を基礎として、ライプニッツ式計算法により接種時までの年五分の割合による中間利息を控除して右要介護期間の介護費相当額の本件接種当時における現価を求めると、その額は二八三一万四〇六〇円となる。

(一二〇万円×一〇・八三七七)+(一八〇万円×八・五〇四九)=二八三一万四〇六〇円

三  慰謝料

原告克治の精神的苦痛の慰謝料は、一〇〇〇万円をもって相当とする。

原告宗明及び同秀子の精神的苦痛の慰謝料は、一人につき五〇〇万円をもって相当とする。

四  損益相殺等(抗弁5)について

原告らが、予防接種法、特別児童扶養手当等の給付に関する法律及び国民年金法に基づき、別紙「美馬克治に関する給付済額一覧表」記載の各給付を受けたことについては当事者間に争いがなく、被告は、同表記載の各給付のうち、予防接種法に基づく医療費及び医療手当については原告らの損害からの控除を主張しない。弁論の全趣旨によれば、その余の各給付は、いずれも本件請求にかかる逸失利益ないし介護費と同一の性質を有し、相互補完の関係にあるものと認められる。したがって、医療費及び医療手当以外の各給付を原告克治の逸失利益ないし介護費の額から控除する。そうすると、原告克治の損害残額は六二四三万〇六四一円となる。

八六四〇万九二六六円-二三九七万八六二五円=六二四三万〇六四一円

五  弁護士費用

本件訴訟の弁護士費用は、各原告らに対する認容額及び請求額を勘案して、原告克治の関係においては、五〇〇万円、原告宗明及び同秀子の関係においては、一人につき五〇万円を認めることが相当である。

六  以上により原告らの損害額は次のとおりとなる。

原告克治 六七四三万〇六四一円

原告宗明      五五〇万円

原告秀子      五五〇万円

第八過失相殺等(抗弁4)について

原告宗明及び同秀子が、原告克治のアレルギー体質で、たえず背中に発疹ができ、肌がかさかさしていたことや、暑さに弱く、汗をかかない特異体質であったことなどが存したにもかかわらず、本件接種に先立って配付された問診票にそれらの事情を記載しなかったことは〈証拠略〉によって認められるが、右症状も格別治療を要するものでもなく、通常人と比較しても特異なものとまではいえないことも認められ、また、〈証拠略〉によると、本件接種当時原告らに配付されていた日本脳炎予防接種の案内及び問診票によっても、右各事情は問診票に記載しなければならないと認識することを期待することはできない。そうすると、原告宗明及び秀子において、右事情を問診票に記載しなかったことがなんら責められるべきであるということはできない。したがって、被告の抗弁4の主張は採用できない。

第九結論

以上の次第により、原告らの本訴請求(原告克治については内金請求)は、いずれも理由があるからこれを認容し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、仮執行宣言につき同法一九六条一項を各適用し、仮執行の免脱宣言は相当でないのでこれを付さないこととして、主文のとおり判決する。

(裁判官 朴木俊彦 近藤壽邦 善元貞彦)

別紙美馬克治に関する給付済額一覧表〈略〉

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例